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2009年6月27日 (土)

司法通訳のあれこれ(その2)

司法通訳の協会の総会に参加して、他言語の同業者の皆さんからいろんな話を聞いて思うことの続き。


その1の後半に書いたのは、主に警察通訳の仕事が控訴院リストに登録されている人と登録されていない人との競合になっているという話だった。

司法通訳(法定翻訳含む)の皆さんの話を聞くと、控訴院のリストに登録されている司法通訳間にもいろいろあるようだ。協会に参加している人は全員が個人事業主または企業として登録していて、TVA(消費税19.6%)の納入義務のある人も多い。その1の前半にも書いたけれど、民亊部門で仕事を頼まれる時は、国が定めた一律の料金が存在しない。だから、それぞれの司法通訳が自分のレートで仕事している。

刑事分野(警察での手続きや刑事裁判)の場合、通訳の料金は国が負担する。民亊分野の場合、依頼者が料金を払う。とくに、民亊分野で通訳や翻訳が必要となる人には「誰が訳してもいいんちゃうん」と言いたいようなものなのに、役所や公証人がリストに載っている人でなくてはダメだ、翻訳にはハンコが必要だと言うから仕方なく依頼するんだ、と感じる人がいてもおかしくない。だから、頼める人が複数いれば、一番安い人に頼みたくなるのが当然だと思う。

もちろん、依頼者に選択肢がないことを分かっていて、わざと高い料金を設定している司法通訳がいれば、それは問題だと思うけど、私の知る限り、多くの司法通訳の人たちは本業でも通訳や翻訳に携わっていて、普段の料金で司法通訳や法定翻訳も引き受けているようだ。私もそうしている。普段の料金を高いと言われると、いちおうそれを生業としている者としては辛いものがあるけど、料金を払うのは依頼者だから、そういう感じ方をされても仕方ないな、くらいの想像力は持っているつもり。ただでさえ見積もりの料金を高いと思われがちなのに、破格の料金で市場に参入してくる同業者がいたら、これは勘弁してほしいと言いたくなるのも当然じゃないかな。

控訴院リストに登録されている通訳・翻訳者の中には個人事業主・企業としての登録をしていない人がいるようだ。総会で話題になったのが未登録業者との料金面での競合だった。先にも書いたように、民亊分野での料金は各人の裁量で決めることができる。登録業者の場合は税金(TVA含む)と社会保険料を払った残りで生活するのだから、あまり安い料金は設定できない。未登録業者はそうした義務のことを考えなくていいので、仕事獲得のために安い料金を提示できる。○語の通訳なら誰某さんが安い、という評判が○語話者コミュニティの口コミで広まると、他の人には仕事が回りにくくなる。当然のなりゆきだ。

司法通訳の選考では、刑事分野でのその言語の需要の有無を重要なポイントにせざるを得ないことは理解できる。特に司法鑑定人の登録が5年ごとの更新制になってから、これまで登録されていた人が更新しない/できないことが増えて、急遽新しい人を補充する必要のある言語だと、たまたまその年に出願していた未経験に近い人、フランスで語学学校を終えた程度の経歴しかない人が登録されて、登録された当人がとまどうなんていう例を見聞きした。

通訳・翻訳業で事業登録しているかどうかは選考の際にはあまり重視されない。需要の有無の次にポイントとなるのは、候補者の言語の運用能力(私なら日本語の運用能力)のようだ。だから、普段は会社員をしている人もいるし、普段は無職という人もいる。未登録業者が控訴院のリストに登録されることをおかしいとする議論は成り立たない(成り立たなかった)。まず、法令の規定によると、司法鑑定人として登録されるために事業登録は必須条件に含まれていない。それに、需要の少ない言語の場合、(司法通訳・法定翻訳に限らずとも)その言語の通訳・翻訳を合法的に営業するのが難しい事情もあった。つまり、稼ぎは少ないのに、本業または副業として営業すれば社会保険料の支払いが発生して、下手すると赤字になるという事情だ。だから、未登録業者の問題は、これまでは見逃されていたというか、容認されていたというか、見て見ぬ振りされていた。今年からはauto-entrepreneur(個人事業主)制度があるので、登録業者となって営業すると赤字になるおそれがあるから、という言い訳は成り立たないはず。本業が別にあるなら、副業として事業登録すればいいのだから。

というわけで、総会では、司法通訳協会から裁判所に対して、とくに通訳・翻訳の分野では事業登録していること(auto-entrepreneur含む)を条件にする、または候補者に事業登録を求めることを、要望として正式に提出したほうがいいのではないか、と提案する人がいた。結局、総会ではその案は提案されただけで、今後どうするとも決まらなかった(決めなかった)。auto-entrepreneurのことを知らないメンバーの人も案外多くいたようで、誰かから相談を受けたらその制度を勧めてみよう、という感じで納得している人もいた。皆さん、それぞれにいろんな相談を受けているのだなあ。


ところで、司法通訳・法定翻訳だけで生計を立てている人は、フランス中を見渡してもほとんどいないんじゃないかと思う。私が知っている範囲では、登録者が少ない言語でフランス中を飛びまわって仕事をしている人が1人いるのだけど、その人でも司法通訳・法定翻訳だけで暮らしているわけではないらしい。

未登録業者が鑑定人として登録されるのは通訳・翻訳分野だけの問題なのかな。たとえば、情報処理技術者(informaticien。フランスにはやたらたくさんいる)として未登録で営業している人は実際には少なからずいるようなんだけど、その人たちが鑑定人になろうと応募した場合、たとえば学歴だけで選考されるのかどうか。通訳・翻訳の場合は外国で生まれ育ったからその国の言葉ができます、程度でも通ったりするからなあ(現に私がそうだったからなあ)。


司法通訳間の競合は、登録事業者・未登録事業者間のものだけではない。長くなったので続きは後日。

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